1.公有地拡大推進法とは?

1-1.結論

公有地の拡大の推進に関する法律(以下「公拡法(こうかくほう)」)は、地方公共団体等が公共施設の整備に必要な土地を「先買い」できる制度を定めた法律で、1972年(昭和47年)に制定されました。

道路などの公共施設を整備するためには、行政が対象の土地を公共用地として確保する必要があります。

そのため、土地所有者に売却時の「届出義務」を課すことで、行政が優先的に購入を検討できる「土地の先買い制度」が設けられています。

ただし、行政への売却はあくまで協議が整った場合にのみ成立し、強制ではありません。

不動産取引において公拡法が関係するのは、次のようなケースです。
これらに該当する場合は、地方公共団体への「届出義務」や「譲渡制限」が生じます。
また、宅建業法第35条に基づく重要事項説明の義務があります。

代表的な届出が必要なケース

  • 都市計画施設の区域内にかかる土地(200㎡以上)
  • 都市計画区域内にある道路・公園・河川の予定区域内にかかる土地(200㎡以上)
  • 市街化区域内の土地区画整理事業の施行区域内にかかる土地(200㎡以上)
  • 市街化区域内で5,000㎡を超える土地 など

以下、公拡法に関する必要な知識を初心者にも分かりやすく体系的に解説します。

1-2.公拡法の目的をサクッと理解

公拡法を理解するには、その目的を把握すると分かりやすくなります。
「公拡法の具体的な内容を早く教えて!」という方は、次の「2.公拡法の対象・制限まとめ」をご覧ください。

日本では、土地や建物などの不動産を個人が所有することが認められています。

この私有財産は、日本国憲法第29条により「財産権」として保障されています。

そのため行政は、たとえ道路整備などの公共事業であっても、財産権を一方的に侵害することはできません。

【参考:財産権】
財産権は、これを侵してはならない。

(e-Gov:日本国憲法第29条)

これは当然のように思えるかもしれませんが、私有財産の扱いは国によって異なります。

たとえば中国では、土地はすべて公有であり、個人や企業は「所有権」ではなく「使用権」を取得する仕組みとなっています。

日本では「公共事業の予定地」と「個人所有の土地」が重なることで、道路整備などの「公共の福祉の実現」と「個人の財産権」が衝突する場面が生じます。

そこで、「一定の条件に該当する土地を売却する際は、まず行政に届出をしてくださいね。その土地が公共用地として必要なときは、お互いの納得のいく内容で売買できる協議をしましょう。もし協議が整わなければ、第三者に売却して良いですよ。」というルールを定めています。

これが、不動産取引の場面でよく耳にする「公拡法」の正体です。

1-3.公拡法が無いと、どうなるか?

もし公拡法が存在しなければ、国や地方公共団体は土地取引の実態を把握できず、次のような深刻な社会問題が生じるおそれがあります。

  • 行政が、公共用地として必要な土地の売却を把握できなくなる
  • 公共用地の取得に時間がかかり、住民生活に必要なインフラの整備が遅れる
  • インフラ整備の遅れにより、住民生活の質や企業活動の効率が低下する

だからこそ、公拡法により土地取引に関するルールを定める必要があるのです。

  • 公拡法の主な目的は、行政による「土地の先買い制度」
  • 届出の要件は、土地のある区域区分に応じて異なる
  • 行政への売却は強制ではなく、あくまで協議が整った場合にのみ成立する

2.公拡法の対象・制限まとめ

公拡法の届出対象となるのは、土地所有者が土地を有償で譲渡する場合です。

一方で、たとえ譲渡予定の土地が区域・面積要件(後述)を満たしていても、無償譲渡など対象外取引に該当する場合は、届出は不要です。

対象となる取引対象外となる取引
土地所有者が有償譲渡(売買、交換、代物弁済など)するとき① 無償譲渡(贈与・寄付など)の場合
② 譲渡先が国または地方公共団体等である場合 
③ 文化財保護法や住宅供給促進法が適用される場合  
④ 公共事業用に売却する場合
⑤ 開発区域に含まれる場合 
⑥ 都市計画で公告済の区域内の土地  
⑦ 過去に届出済で1年以内の再売却  
⑧ 国土法の規制区域内の場合  
⑨ 国土法の事後届出が必要な場合  
⑩ 面積が政令の下限基準に満たない場合
⑪ マンションの専有部分(1室)の譲渡

【参考:届出が不要となるケース(例外)】

以下のいずれかに該当する場合は、前項の届出義務は適用されません。

(1) 譲渡先または譲渡元が、国・地方公共団体・政令で定める法人である場合
(2) 文化財保護法や、大都市地域における住宅・住宅地供給促進特措法に基づく規定の適用を受ける場合
(3) 都市計画施設、土地収用法に基づく施設、またはこれらに準ずる事業に供するための譲渡である場合
(4) 都市計画法に基づき、開発行為の許可を受けた開発区域に含まれる場合
(5) 都市計画法に基づく公告後10日を経過した市街地開発事業予定区域や都市計画施設予定地、または都市計画事業施行区域に含まれる場合
(6) 届出後1年以内に、同じ届出者が有償で譲渡する場合
(7) 国土利用計画法に基づいて指定された規制区域に含まれる場合
(8) 国土利用計画法に基づく届出が別途必要とされる土地である場合
(9) 面積が政令で定める基準未満であるなど、政令で定める一定の要件を満たす場合

(e-Gov:公有地の拡大の推進に関する法律第4条第2項)

2-2.公拡法の対象区域・面積要件

公拡法の届出対象となる区域や面積要件は、都市計画の区域区分によって異なります。

次の表は、区域区分ごとに必要な面積要件の原則をまとめたものです。

ただし、都道府県の条例で引き下げすることが可能であるため、詳細については対象となるエリアの自治体への確認が必須です。

たとえば東京23区大阪市では、面積要件として原則どおり200㎡を適用していますが、神奈川県綾瀬市や埼玉県鴻巣市では100㎡に引き下げています。

対象区域に土地の一部が含まれている場合でも、土地全体の面積が面積要件を満たしていれば届出が必要です。(例:土地面積が300㎡で、そのうち15㎡のみが都市計画施設の区域に含まれている場合でも、届出が必要です。)

市街化区域内のケース

対象区域届出が必要な面積
1都市計画施設の区域内(土地区画整理事業除く)200㎡以上
2道路、公園、河川の予定区域内200㎡以上
3土地区画整理事業の施行区域内200㎡以上
4住宅街区整備事業の施行区域内200㎡以上
5生産緑地地区の区域内200㎡以上
6上記1~5以外の市街化区域内5,000㎡以上
7上記1~5以外の大都市法による重点地域5,000㎡以上

※上記1~5の面積要件は、都道府県の条例により引き下げが可能です

市街化調整区域のケース

対象区域届出が必要な面積
1都市計画施設の区域内(土地区画整理事業除く)200㎡以上
2道路、公園、河川の予定区域内200㎡以上

※上記1・2の面積要件は、都道府県の条例により引き下げが可能です

非線引き区域のケース

対象区域届出が必要な面積
1都市計画施設の区域内(土地区画整理事業除く)200㎡以上
2道路、公園、河川の予定区域内200㎡以上
3住宅街区整備事業の施行区域内200㎡以上
41~3以外の大都市法に定める重点地域5,000㎡以上
51~4以外の都市計画区域内10,000㎡以上

※上記1~3の面積要件は、都道府県の条例により引き下げが可能です

 都市計画区域外のケース

対象区域届出が必要な面積
1都市計画施設の区域内(土地区画整理事業除く)200㎡以上

※上記1の面積要件は、都道府県の条例により引き下げが可能です

【参考:土地を譲渡しようとする場合の届出義務】

次のいずれかに該当する土地を有償で譲渡しようとする場合、土地の所在地・面積・予定価格・譲渡先・その他必要事項を、所管行政庁に届け出る必要があります。

対象となる土地
(1) 都市計画施設の区域内にある土地
 ※土地区画整理事業で施行される一部の土地を除く

(2) 都市計画区域内にある以下の土地(ただし、一定の土地区画整理事業の施行区域は除く)
 (1) 道路法により道路区域として決定された土地
 (2) 都市公園法により都市公園予定地とされた土地
 (3) 河川法により河川予定地として指定された土地
 (4) 上記(1)〜(3)と同等とされる政令で定める土地

(3) 都市計画法に基づく土地区画整理促進区域内で、都道府県知事が指定・公告した土地区画整理事業の施行区域にある土地

(4) 都市計画法に基づき、住宅街区整備事業の施行区域として定められた土地

(5) 都市計画法に基づく生産緑地地区の区域内にある土地

(6) 上記以外で、都市計画区域(市街化調整区域を除く)内にあり、一定の面積(2,000㎡以上など)を超える土地

(e-Gov:公有地の拡大の推進に関する法律第4条第1項)

2-3.公拡法の制限内容

公拡法の対象となる場合には、次のような制限がかかります。

届出義務

公拡法の対象となる取引を行う場合、土地所有者は、必要な事項(土地の所在及び面積、譲渡予定価額、譲渡先など)について、都道府県知事や市長に届出を行わなければなりません。

届出書には譲渡先の情報なども必要となるため、基本的には譲渡先が未定の場合、届出はできません。

譲渡先が決まっていない場合には、「申出制度」を活用することができます。

 申出制度

土地所有者が「行政に買い取ってほしい」と希望する場合に利用できる制度です。
届出のような義務ではなく、土地所有者の任意による申出です。

届出とは異なり、売却相手が未定でも提出可能で、売却活動の初期段階から申出を行うことができます。
言い換えれば、「これから売ろうとする土地を、まず行政に打診する」手続きです。

届出制度では、譲渡先が決まった後に届出を行い、そこから譲渡制限期間が始まるため、売買契約までに時間がかかることがあります。

そこで、事前に申出制度を活用することで、買主が見つかった際にはスムーズに売買契約へ移行できます。

申出可能な条件には、届出要件よりも緩やかな面積基準が設定されることもあります。

申出を行い、買取りを希望する自治体がないという通知があった場合、通知の日から1年間は有償譲渡に関する届出が不要となり、いつでも第三者への売却が可能です。

譲渡制限

公拡法に基づく届出や申出を行った場合、土地の所有者は、その土地の他者への譲渡が制限されます。
譲渡制限の期間は最大6週間ですが、短縮されることがあります。

まず、起点となるのは届出後の「受理」であり、3週間以内に地方公共団体は、買取希望の有無を土地所有者に通知する必要があります。

買取希望が「有」の場合は、買取協議に進むため、通知の時点からさらに3週間、譲渡が制限されます(A)。

買取希望が「無」の場合は、通知の時点で譲渡制限は解除されます(B)。
買取希望の有無について通知がない場合は、届出が受理されてから3週間経過時点で譲渡制限が終了します(C)。

買取希望「無」の通知の効力は1年間有効とされ、仮にその期間中に譲渡先や価格が変更された場合でも再度の届出は不要です。

【参考:土地の譲渡の制限】

土地の届出を行った者は、以下の場合に応じて、一定期間はその土地を地方公共団体等以外に譲渡することができません。

(1) 買取協議に関する通知があった場合
 通知日から3週間が経過するまで。ただし、その期間内に買取協議が不成立と明らかになったときは、その時点で譲渡可能。

(2) 買取を行わない旨の通知があった場合
 通知があった時点から譲渡可能。

(3) 所定の期間内に通知がなかった場合
 届出日から3週間が経過するまで譲渡不可。その後は譲渡可能。

(e-Gov:公有地の拡大の推進に関する法律第8条)

税制優遇

公拡法の適用により地方公共団体等との間で土地売買契約が成立すると、税法上、譲渡所得について最高1,500万円までの特別控除を受けることができます。

罰則

届出を行わずに土地取引をしたり、虚偽の届出を行った場合には、50万円以下の過料に処せられる可能性があります(公拡法第32条)

ただし、公拡法の届出義務に違反して土地の有償譲渡が行われた場合でも、当該売買契約は私法上は有効であると考えられています。

  • 公拡法の対象となる場合、土地所有者に「届出義務」と「譲渡制限」が課される
  • 届出は譲渡先が決まった段階で行う必要があるため、売買契約のスケジュールに注意
  • 譲渡先が未定の場合は、売却を見据えて「申出制度」を活用することが可能
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3.公拡法の手続きの流れ

3-1.届出の流れ

公拡法に基づく手続きの流れは、以下のとおりです。

①届出・申出

土地所有者は、譲渡しようとする日(=契約予定日)の3週間前までに「土地有償譲渡届出書」等を提出して、地方公共団体等に届出を行う必要があります。原則として、譲渡先が決まっていない場合は届出を行うことができません。

買取りを希望する場合は「土地買取希望申出書」等により申し出る必要があります。申出制度では、譲渡先が未定であっても申請が可能です。

②地方公共団体等による検討

地方公共団体等は、届出又は申出のあった土地について、土地開発公社や土木事務所等の関係団体と情報を共有し、受理日から3週間以内に買取希望の有無について検討します。

③通知

地方公共団体等は、買取希望の有無について土地所有者に通知をします。

買取希望がない場合にも、通常、通知は行われます。

④買取協議

地方公共団体等が買取を希望する場合には、土地所有者との間で協議が行われます。

買取協議の期間は、通知があった日から3週間以内とされており、この期間中は土地所有者による第三者への譲渡が制限されます。

つまり「②地方公共団体等による検討」の期間に加えて、譲渡制限期間がさらに延長されることになります。

土地の買取りは強制ではありませんが、正当な理由なく協議を拒むことはできません。

ただし、あくまでも協議であるため、民間同士の売買と同様に任意交渉であり、最終的に土地を地方公共団体等に売却するかどうかは、土地所有者の判断に委ねられています。

3-2.土地の買取価格

地方公共団体等が届出対象の土地を買い取る場合、原則として公示価格を基準に算定された価格となります。

公示区域外の土地については、近隣の類似取引価格や、当該土地の位置・地積・周辺環境などを総合的に考慮し、正常な取引価格を算定しなければならないとされています。

  • 土地所有者は、契約予定日の3週間前までに地方公共団体等へ届出をする必要あり
  • 地方公共団体等は届出を受理後、買取希望の有無を検討し、土地所有者に通知する
  • 買取希望がある場合は、土地所有者は買取協議を行う必要がある

5.不動産取引時のチェックポイント

公拡法の届出対象となる対象区域は複数ありますが、市街化区域における5,000㎡以上の土地や、住宅街区整備事業の施行区域内などは、実務上は該当する機会が少ないケースです。

最も該当する可能性が高いのは「都市計画施設の区域内にかかる土地(200㎡以上)」であり、特に「都市計画道路」については注意深く確認する必要があります。

土地全体の面積が200㎡以上であれば、一部しか都市計画道路にかかっていない場合でも届出が必要です。「都市計画道路にかかる部分が200㎡以上」ではない点に注意が必要です。

都市計画道路は、該当する地方公共団体のホームページで確認できます。
たとえば東京都豊島区では、「豊島区地図情報システム(GIS)」にて、都市計画道路を絞り込むことができます。

もし土地が都市計画道路の区域内にかかるかどうか判断がつきにくい場合は、道路管理者に問い合わせることで詳細に確認することが可能です。道路管理者とは、国道であれば国、都道府県道であれば都道府県、区市町村道であれば区市町村です。


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本記事の監修者

株式会社Delight Hub 代表取締役

立原祥貴

首都大学東京を卒業後、豊島区(都市計画課)に入庁。

▶不動産の調査窓口や、池袋駅周辺の再開発・地権者交渉、用途地域等の法令改正、都市計画マスタープランの策定、都市計画審議会の運営など、主に都市計画事業に従事。

▶アパート経営をキッカケに土地仕入れに興味を持ち、不動産業界に。売買仲介営業や、iYell株式会社(住宅ローンテック企業)にて住宅ローン提案・マーケティング・マネジメントを経験。

▶2024年、住宅・不動産業界の営業DXを推進したいという思いから株式会社Delight Hubを創業。

▶東京都板橋区出身。資格は宅建士、FP2級など。