1.国土利用計画法とは?
1-1.結論
国土利用計画法(以下「国土法」)とは、地価の急激な高騰や無秩序な土地開発を防ぎ、土地の適正な利用を促進するために、1974(昭和49)年に制定された法律です。
国土法では、土地取引を規制する区域として日本全国を「①規制区域」「②監視区域」「③注視区域」「④区域指定なし」に分類し、それぞれ異なる制限が設けられています。
特に不動産取引において国土法が関わるのは、以下のようなケースです。
これらに該当する場合は、地方公共団体への届出が必要となります。
また、宅建業法第35条に基づく重要事項説明の義務があります。
事後届出が必要な場合
▼事後届出が必要となるケース(区域指定なし/東京都小笠原村を除く全国)
- 2,000㎡以上の土地取引(市街化区域)
- 5,000㎡以上の土地取引(市街化区域を除く都市計画区域)
- 10,000㎡以上の土地取引(都市計画区域外)
事前届出が必要な場合
▼事前届出が必要となる場合(監視区域/現在は東京都小笠原村のみ)
- 500㎡以上の土地取引
このように、東京都小笠原村を除く全国では、原則として2,000㎡未満の土地取引は国土法の届出対象外です。
以下、国土法に関する必要な知識を初心者でも分かるよう体系的に解説します。
1-2.国土法の目的をサクッと理解
国土法を理解するには、その目的を把握すると非常に分かりやすいです。
日本は1960〜1970年代、高度経済成長期にあり、地価の急騰と不動産開発の過熱が社会問題化していました。こうした状況に対応するため、1974年に国土利用計画法(国土法)が制定され、「地価の異常高騰」や「乱開発の抑止」を目的とした制度が構築されました。
特に、1980年代後半のバブル期には、地価高騰の抑制手段として国土法が積極的に運用されました。
国土法では、土地取引に対する規制強度に応じて、以下の4つの区域に分類しています。
「①規制区域」は、最も強硬な規制手段として土地取引の許可制が規定されています。ただし、経済への過度な介入が懸念されるため、これまで一度も指定されたことはありません。
「②監視区域」は、事前届出制が規定されており、土地取引の監視や勧告措置が可能です。バブル期には、東京23区や横浜市・川崎市などが指定され、全国に広がりました。これは「土地神話」による過熱した地価上昇に対する歯止めとして機能しました。
「③注視区域」は、1998年の国土法改正で創設されたものの、制度創設当時はすでに地価下落基調にあり、これまで一度も指定されたことはありません。
このように、「①規制区域」「③注視区域」はいずれも制度上存在するものの、実際には活用されておらず、「②監視区域」も現在では東京都小笠原村を除き、すべて指定解除されています。
一方、「④区域指定なし」においては、大規模な土地取引を中心に、一定面積以上の取引について事後届出の制度が今なお全国で運用されています。
つまり、国土法は現在、不動産実務の中で関わる場面は限られているものの、地価高騰や投機的土地取引への牽制手段として、制度的に重要な役割を担っています。
これが、不動産取引の場面でよく耳にする「国土法」の正体です。
【参考:国土利用計画法第1条(目的)】
この法律は、国土利用計画の策定に関し必要な事項について定めるとともに、土地利用基本計画の作成、土地取引の規制に関する措置その他土地利用を調整するための措置を講ずることにより、国土形成計画法(昭和二十五年法律第二百五号)による措置と相まつて、総合的かつ計画的な国土の利用を図ることを目的とする。(国土利用計画法第1条)
1-3.国土法が無いと、どうなるか?
もし国土法が存在しなければ、国や地方公共団体が土地取引の実態を把握できず、地価の高騰を抑制するための対応が困難となります。これにより、次のような深刻な社会問題が生じるおそれがあります。
- 不動産投機に規制をかけられず、不動産価格が異常な水準まで高騰する
- 地価の上昇により、都市部の住宅価格が一般庶民の手の届かない水準になる
- バブル崩壊後、多くの企業・個人が不良債権や住宅ローン破綻に苦しむ
実際には、国土法の制度があったにもかかわらず、日本は1980年代後半に土地バブル、そしてその後のバブル崩壊を経験しました。しかしながら、制度の存在によって一定の歯止め効果があり、地価高騰のペース抑制や取引実態の可視化に寄与したと考えられています。
だからこそ、国土法により土地取引に関するルールを定める必要があります。
- 国土法の主な目的は、地価高騰対策と土地利用の適正化
- 「事後届出」は、東京都小笠原村を除く全国で対象(区域指定なし)
- 「事前届出」は、東京都小笠原村で対象(監視区域)
2.国土法の対象・制限まとめ
2-1.国土法の対象取引
国土法の届出が必要になるのは、以下の2つの要件を満たす土地取引です。
- ① 所有権や地上権などの「権利の移転・設定」があること
- ② 「対価(お金など)」を伴う契約であること
たとえば、贈与は権利の移転はありますが、対価を伴わないため、届出の対象外となります。
対象となる取引
- 売買
- 交換
- 共有物の持分権の譲渡
- 営業譲渡(譲渡する財産に土地が含まれる場合)
- 譲渡担保
- 一時金を伴う地上権、賃借県の譲渡又は設定
- 予約完結権、買戻権等の形成権の譲渡
- 所有権の移転を受ける権利を含む信託受益権の譲渡
- 代物弁済
- 農地の取引(農地法第5条第1項の許可を要する場合)
- 保留地処分(土地区画整理法) 等
対象外となる取引
- 抵当権、不動産質権等の移転又は設定。
- 地役権、鉱業権等の移転又は設定。
- 信託の引受及びその終了。
- 相続
- 遺産の分割
- 遺贈(包括遺贈を含む)
- 土地収用
- 換地処分、交換分合及び権利交換(土地区画整理法)
- 贈与
- 財産分与
- 共有物の分割、持分権の放棄
- 工場財団等の移転
- 予約完結権、買戻権等の形成権の行使 等
2-2.国土法の対象区域・制限
国土法の対象区域は、次の4つに分類され、それぞれ制限内容が異なります。
- ①規制区域
- ②監視区域
- ③注視区域
- ④区域指定なし

①規制区域
「規制区域」とは
規制区域とは、土地取引が投機的に行われており(または行われるおそれがあり)、緊急な対策が必要だと判断された区域のことです。
都道府県知事はこのような区域を必ず規制区域に指定しなければならないとされており(義務規定)、他の区域とは異なる厳格な運用が想定されています。
規制区域内の制限
区域内における土地取引は、面積に関わらずすべて都道府県知事の許可制です。
許可が認められるのは、自己居住、従前からの事業継続、公益目的など正当な土地利用目的に限られ、投機目的の取引は許可されません。
許可を得ずに締結された契約は無効となります。
規制区域の事例
規制区域は法制度上存在するものの、経済活動への強い介入が懸念されるため、これまで一度も指定されたことはありません。
実務上は運用されておらず、制度としての枠組みが現存している状態です。
【参考:土地に関する権利の移転等の許可】
規制区域に所在する土地について、土地に関する所有権若しくは地上権その他の政令で定める使用及び収益を目的とする権利又はこれらの権利の取得を目的とする権利(以下「土地に関する権利」という。)の移転又は設定(対価を得て行われる移転又は設定に限る。以下同じ。)をする契約(予約を含む。以下「土地売買等の契約」という。)を締結しようとする場合には、当事者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。その許可に係る事項のうち、土地に関する権利の移転若しくは設定の予定対価の額(予定対価が金銭以外のものであるときは、これを時価を基準として金銭に見積つた額。以下同じ。)の変更(その額を減額する場合を除く。)をして、又は土地に関する権利の移転若しくは設定後における土地の利用目的の変更をして、当該契約を締結しようとするときも、同様とする。(国土利用計画法第14条第1項)
②監視区域
「監視区域」とは
監視区域とは、地価が急激に上昇しており(または上昇するおそれがあり)、適正な土地利用が困難となる可能性がある区域のことです。
都道府県知事は、こうした地域を監視区域として指定することができます(任意指定)。
「①規制区域」が緊急かつ強力な介入(許可制)を要する異常事態に対応するものであるのに対し、監視区域は地価の急騰に対して、まずは取引状況の監視と是正勧告による対応を行うものです。そのため、規制の強度は規制区域に比べて一段階緩やかです。
監視区域内の制限
都道府県が定めた一定面積以上の土地取引について、事前届出制が適用されます。
届出を受けた都道府県知事は、土地の利用目的や取引価格を審査し、必要に応じて契約の変更や中止を勧告することができます。
ただし、勧告に法的強制力はなく、規制区域のような許可制や契約の無効措置は適用されません。
監視区域の事例
バブル期には地価の急騰に伴い、全国的に監視区域の指定が拡大しました。1993年(平成5年)11月のピーク時には、全国58の都道府県・政令市下の計1,212区市町村で指定されました。
しかし、バブル崩壊後の地価下落により、ほとんどの区域が指定解除されました。
現在では、東京都小笠原村の都市計画区域(父島・母島の本島)のみが監視区域に指定されています。
小笠原村で500㎡以上の土地取引を行う場合は、都知事に事前届出が必要です。
小笠原村の父島・母島では、国有林や国立公園等が大部分を占めており、民有地は全体の約2割にすぎません。
他地域と異なり、バブル崩壊後も地価は大きく下がらず、安定して維持されています。
こうした背景のもと、外部資本(島外の投資家や事業者)が観光開発などを目的に土地取得を進めた場合、地価急騰と土地利用秩序の混乱が懸念されます。
東京都は、このような投機的土地取引のリスクに対応するため、監視区域としての制度運用を継続し、高値取引や短期転売を抑止し、適正かつ合理的な土地利用の維持を図っています。
【参考:監視区域における土地に関する権利の移転等の届出】
第二十七条の四の規定は、監視区域に所在する土地について土地売買等の契約を締結しようとする場合について準用する。この場合において、同条第二項第一号中「同号イからハまでに規定する面積未満」とあるのは「同号イからハまでに規定する面積に満たない範囲内で都道府県知事が都道府県の規則で定める面積未満」と、「同号イからハまでに規定する面積以上」とあるのは「当該都道府県の規則で定められた面積以上」と、同条第三項中「次条第一項」とあるのは「第二十七条の八第一項」と、「同条第三項」とあるのは「同条第二項において準用する第二十七条の五第三項」と読み替えるものとする。(国土利用計画法第27条の7第1項)
③注視区域
「注視区域」とは
注視区域とは、地価が一定期間内に相当程度を超えて上昇しており(または上昇するおそれがあり)、適正な土地利用に支障が生じる可能性のある区域のことです。
都道府県知事は、こうした地域を監視区域として指定することができます(任意指定)。
「②監視区域」では、都道府県が独自に面積要件を設定することが可能ですが、注視区域では届出対象となる土地の面積はすべて法定基準のままとなっています。
そのため、注視区域の規制は、監視区域に比べて一段階緩やかです。
注視区域内の制限
注視区域内においては、「一定面積以上の土地(買いの一団・売りの一団を含む)」の取引を行う際は、都道府県知事への事前届出制が適用されます。
一定面積以上の土地とは、次のとおりです。
- 2,000㎡以上の土地取引(市街化区域)
- 5,000㎡以上の土地取引(市街化区域を除く都市計画区域)
- 10,000㎡以上の土地取引(都市計画区域外)

注視区域の事例
注視区域は、1998年の国土法改正により制度として創設されましたが、これまで一度も指定されたことはありません。
制定当時はすでに地価が下落傾向にあったため、実際に制度が運用される状況には至らなかったと考えられます。
【参考:注視区域における土地に関する権利の移転等の届出】
注視区域に所在する土地について土地売買等の契約を締結しようとする場合には、当事者は、第十五条第一項各号に掲げる事項を、国土交通省令で定めるところにより、当該土地が所在する市町村の長を経由して、あらかじめ、都道府県知事に届け出なければならない。その届出に係る事項のうち、土地に関する権利の移転若しくは設定の予定対価の額の変更(その額を減額する場合を除く。)をして、又は土地に関する権利の移転若しくは設定後における土地の利用目的の変更をして、当該契約を締結しようとするときも、同様とする。(国土利用計画法第27条の4第1項)
④区域指定なし
「区域指定なし」とは
区域指定なしとは、「規制区域」「監視区域」「注視区域」のいずれにも指定されていないすべてのエリアを指します。
この区域では、規制区域のような許可制や、監視区域・注視区域のような事前届出制度は適用されません。
ただし、取引の内容によっては事後届出が必要になるため、注意が必要です。
区域指定のないエリアの制限
区域指定のないエリアにおいては、「一定面積以上の土地(買いの一団を含む)」の取引を行う際は、都道府県知事への事後届出制が適用されます(売りの一団は対象外)。
一定面積以上の土地とは、次のとおりです。
- 2,000㎡以上の土地取引(市街化区域)
- 5,000㎡以上の土地取引(市街化区域を除く都市計画区域)
- 10,000㎡以上の土地取引(都市計画区域外)

区域指定のないエリアでの事例
区域指定がないため、全国的に広く事後届出が行われています。
たとえば札幌市では、平成29年(2017年)に155件の届出があり、そのうち最も多かったのは住宅用途です。戸建て分譲用地やマンション用地などの新規住宅開発案件が中心です。
そのほか、商業施設用地(店舗・流通倉庫・ホテル)、生産施設(資材置場、倉庫、太陽光発電設備)も多く見られます。
特に、太陽光発電所やリゾート施設、工場用地など事業目的の大型取引は、地方圏でも届出事例があります。
また、山林・原野の売買も報告されており、多くがメガソーラー設置や資産保有目的と推定されます。
これらは、国土法に基づく届出制度により、地方公共団体が土地利用の妥当性や地域計画との適合性を把握・審査を行っています。
【参考:土地に関する権利の移転又は設定後における利用目的等の届出】
土地売買等の契約を締結した場合には、当事者のうち当該土地売買等の契約により土地に関する権利の移転又は設定を受けることとなる者(次項において「権利取得者」という。)は、その契約を締結した日から起算して二週間以内に、次に掲げる事項を、国土交通省令で定めるところにより、当該土地が所在する市町村の長を経由して、都道府県知事に届け出なければならない。(国土利用計画法第23条)
2-3.一団の土地の取引
個々の土地取引の面積が届出基準に満たない場合でも、一連の計画の下で取得・譲渡される「一団の土地」として合算されると、届出が必要になるケースがあります。
このような取引は、「買いの一団」「売りの一団」と呼ばれ、それぞれ届出義務の対象となる区域が異なります。
買いの一団
概要
一人の買主(権利取得者)が、一連の計画のもとで複数の土地を取得し、その合計面積が届出基準を超える場合、届出が必要です。
たとえば、開発事業者が隣接する複数の区画を購入し、合計で届出対象面積を超える場合などが該当します。
このような場合、個々の取引の面積が届出基準未満であっても、全体の計画として面積が合算され、届出が必要となります。
対象区域
買いの一団は、「区域指定なし」における事後届出のほか、「監視区域」や「注視区域」における事前届出の対象となります。

売りの一団
概要
一人の売主(譲渡予定者)が、自身が所有する一体的な土地を、複数の相手に分割して譲渡し、その合計面積が一定面積以上となる場合を指します。
対象区域
売りの一団は、「区域指定なし」における事後届出では対象外ですが、「注視区域」や「監視区域」のような事前届出区域では届出対象となります。

- 「事後届出」→「区域指定なし」における対象土地取引
- 「事前届出」→「監視区域」「注視区域」における対象土地取引
- 「許可制」→「規制区域」における対象土地取引
3.国土法の手続き
ここでは、国土法の「事後届出」の手続きを解説します。
「事後届出」は、区域指定がないエリア(東京都小笠原村を除く全国)における対象土地取引の際に必要となります。
「事前届出」は、現在は監視区域(東京都小笠原村)のみに適用され、極めて限定的なため本記事では割愛します。
3-1.事後届出の流れ
対象となる土地取引において、譲受人(権利取得者)は、契約締結日を含めて2週間以内に、区市町村長を経由して都道府県知事へ届出を行う必要があります。
届出を受けた知事は、土地の利用目的について審査を行います。
届出内容に問題がなければ「不勧告」の決定となり、問題がある場合には「助言」「指導」、あるいは「勧告」が行われます。
特に、「勧告」に従わない場合には、その旨及びその勧告の内容を公表することがあります。

3-2.事後届出に関する主要要件
届出義務者 | 買主(譲受人) |
届出期限 | 契約締結日を含めて2週間以内 |
届出先 | 区市町村長を経由して都道府県知事へ |
勧告内容 | 土地利用目的の変更を勧告可能 (取引の中止勧告は不可) |
勧告の期限 | 届出日から3週間以内に勧告可能 |
- 事後届出は、契約締結日を含めて2週間以内 に行う必要あり
- 事後届出の義務者は、買主(譲受人)
- 事後届出の提出先は、区市町村長を経由して都道府県知事へ

